例えばそれが詩というか。

ネット詩人、5or6。若いミュージシャンを応援したり、ラーメン食べたり、詩を書いたり。

アラブとヒヨコ

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いつまでもうじうじと文句言っていても 吐いた唾を飲み込めないぐらい小心者なのに ああ、また道行く人に絡んでは突き飛ばされて いみじくも先にあった横丁でドブに突っ込んで 隣のサラリーマンに水がかかったとクレームをつげて 小銭をせびって安いホッピーをちびちびと飲んでいる 汚いテーブルにうつ伏せてゴソゴソと 上着に仕舞ってあった黄色いビニールのヒヨコを取り出して そのヒヨコをテーブルに置き そいつに向かって またうじうじと文句を言っている その内容は実に正論だ 本にしたらベストセラーになるだろう もしくは何かしらの賞は取れるだろう 文章にしたらいっぱしの論文の内容だ いったいどこで学んだのかわからないまま 結論はいつも馬鹿野郎と叫び ヒヨコを店に放り投げて 帰る時に拾ってまた街を彷徨う 今日もまたいつもの文句が始まるのだろう 見知らぬ相手にわざとぶつかる するといきなり胸ぐらを掴まれて顔にパンチを食らって鼻から血を吹き出す 大げさに倒れて隣の看板に突っ込んだ ガシャン!ガラスの割れる音で女性の叫び声が辺りに広がる これが一番の街のサイレンだと知っていた 周りを見てパンチを放った男は去って行く 殴られてシャツが真っ赤になりながら立ち上がり 鼻を手で伸ばし、鼻血をフンと道端に放つ 不意に上着のポケットに触る 無い ヒヨコが無い キョロキョロと薄暗い街中を探す 地面に伏せて黄色いビニールのヒヨコを探す 無い 無い ヒヨコよ何処だ ジワジワと不安が押し寄せる いや 久々に感じるこの胸の乾いた感じ 孤独感だ 辺りから談笑やら雑談やら賑やかなノイズが聞こえ始める うるさいうるさいうるさい 必死に地べたを這って探す すると一人の青年が近寄って尋ねた お嬢さん、こんなところで何をしているのですか その青年はアラブの王族の一人だった 日本に留学して三年 たまたま卒業記念のパーティーの二次会を抜け出して日頃興味のあった横丁に足を踏み入れたのだ 汚い格好をした女性が立ち上がる 鼻から血をだしていたがとても美人の顔をしていた うるせえ、ハゲ野郎 決してハゲてはいない青年はビックリして尻もちをついてしまった 恋に落ちたと感じた 似合わない背広をした小汚い美女はまた地べたを探す 尻もちをついた青年は横に汚い黄色いビニールのヒヨコを見つけた もしかしてこれですか? 手に持ち女性に見せる ハッとした表情をして勢いよく近寄って青年からヒヨコを奪った そうだ馬鹿野郎 女性はまた鼻から血をフンと出し そのまま歩こうとしたが振り返り ありがとう と小さい声で会釈して歩いて行く 立ち上がり 青年は彼女の後を気付かれないように歩き ヒヨコを取り出して文句を言う彼女の声を聞いて驚いた アラビア語で話している 彼女は青年を見てアラビア語で文句を言おうと思ったのだろうか それとも青年がつけているのを知っているのだろうか それはわからないまま彼女は話す 内容は世界平和についての話だった 青年は聞き入り涙が溢れて止まらなかった 告白なんて出来なかった 青年はアラビア語で馬鹿野郎とヒヨコを投げる彼女に礼をしてその場を後にした アラブに帰っても忘れられない夜だった 時が経ち青年は王様になり 国民の前でスピーチをする事になった スピーチ中 渡された原稿から目をはなし ふと彼女がヒヨコに話していた事を 国民に思い出しながら話した 話し終わると国民全員が拍手をして泣きながら王様を讃えた その話はやがて本になりベストセラーになり 王様はノーベル平和賞を貰った 王様の部屋にはノーベル平和賞のトロフィーの横に汚い黄色いビニールのヒヨコが飾ってある 何故そこに飾ってあるのかは 側近の方々に聞いても誰にもわからない 取材に来ていたアナウンサーが王様に尋ねると少し笑い 日本の思い出と言って部屋に戻って行った 後からやって来た第四夫人にも尋ねてみると うるせえハゲ野郎 と日本語で返された その顔は口に似合わずとても美人だった ちなみにアナウンサーは帰国後 カツラであるとカミングアウトをして一躍人気者になりフリーとなったらしい

おしまい。